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錬金術の基礎 アリャンドン・マスイエリ 著 若い魔術師は見落としがちだが、錬金術は歴史のある学問で、極めれば人生が変わるほどやりがいもある。錬金術の公式で使われる材料の知識を深めるのは難しく、危険をともなうが、あきらめずに真摯に研究を続けていけば、最後には大きく報われる学問と言えよう。 成功を勝ち取るためにも、それを目指すためにも、まずもって初級の錬金術師は錬金術の基本原理を理解しなければならない。この世の道具のほとんどは自然界の有機物から作られており、マジカの特性を含んだ根源的な成分に分解することができる。腕のいい錬金術師になると、材料のさまざまな特性を利用できるようになる。数種類の材料の源を混ぜ合わせることで薬ができあがる。もちろん、誰が飲んでもよい。(伝説によると、真に偉大な錬金術師はひとつの材料から薬を調合できたという。それだけの離れ業を身につけるには並大抵の努力では足りないだろう) 錬金術師の調合する薬は材料によって多彩な効能が生まれる。そのなかには毒となるようなものさえある。たいていのレシピからは、正と負の効果を併せ持つ薬が生成される。どのレシピが最高の結果をもたらすのか、それを見つけるのは錬金術師にかかっていると言えよう。(負の効果だけを持つ薬を生成すれば毒として利用できることも覚えておくといいだろう。本書ではこの実践を推奨しないため、これ以上の言及は避けておく) ウォートクラフト ウォートクラフトは、実際のところ、素人向けの錬金術である。材料を食べるには歯ですりつぶさなければならないが、その結果、もっとも純粋な源だけが解放され、食べた人に瞬間的な効果をもたらすのだ。ウォートクラフトでは、きちんとした道具で作られる薬のような効果は期待できない。 錬金術のツール 乳鉢と乳棒は錬金術に欠かすことのできないツールである。これがないと、薬として使えるように材料をうまく下準備することができない。新進の錬金術師はこれらのツールを肌身離さず持ち歩き、早いうちにその扱いに慣れておくべきだろう。材料をすりつぶすことは薬を作るうえで欠かせない基本手順となる。きちんと製粉された紅花草の花弁は粉末状になり、朝鮮人参のような材料を混ぜ合わせることで解毒剤ができあがる(これは錬金術師がもっとも早いうちに学んで身につけるレシピのひとつだろう。調合に失敗したときにお世話になることの多い薬だからである)。 腕のいい錬金術師なら、薬の質を高めるためのツールも扱えるようになる。レトルトを使うと混合物を純化することができ、薬の正の効果を高める。混合物を蒸留器で洗浄すると、不純物が取り除かれ、負の効果を減らすことができる。燃炉を使えば、混合物の不純物を焼却することができ、薬の効能がアップする。これらの道具は薬の生成に必ずしも必要なわけではないが、使わない手はないだろう。 材料の組み合わせ 薬の質は材料に依存する。同等の効果を持つ材料だけで薬を調合するのが無難だろう。ひとつの薬に対して4種類までの材料なら、問題なく使用できるようである。 錬金術師は材料の下ごしらえの腕前が上がっていくと、新たな特性を見つけられるようになり、それらを薬に利用することができる。錬金術師としての幅が広がるわけだから嬉しい瞬間には違いないが、完成時にどのような効果を持った薬になるのかしっかりと把握しておくべきであろう。すでに確立されたレシピの結果が変わる可能性があるうえ、すべてがプラスに働くわけではないからである。 白1 魔法学・薬学
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シヴァリング・アイルズ動物総覧 ナムリル・エスプリンク 我が親友にして同僚であり、全世界の生物を守ったヴェンリストウィーに捧ぐ。 若い頃に私は動物相のあらゆる形態についての広範囲の研究に関する教育を受けたのだが、大遠征でシヴァリング・アイルズを調査した際の発見に対する驚きは、完全に想像を絶する物だった。私は生まれてからずっとここで暮らしてきたが、アイルズの生物がどれほど素晴らしく独特なものであり得るか、今になってようやく気がつき始めたのである。 大遠征は、6年間に及ぶ大規模な調査を行い、アイルズをくまなく調べて固有の動物相を分類し、その情報を後世および科学界のために記録しようという試みだった。各生物を詳細に描写すべく、私は最善を尽くした。この情報は多くの命を犠牲にして得られた物であり、他に類を見ないほど総合的で信頼できる参考文献だということを、特筆しておくべきだろう。 バリウォグ バリウォグは並外れて醜い水生生物で、シヴァリング・アイルズの湖、川、沼を主な生息地にしている。バリウォグ、あるいは地元民の一部がそう呼ぶところの「ウォグ」は、四足歩行を行い、決して愚鈍あるいは従順とは言えない性質を有する。十分に成長した成体のバリウォグはそのかぎ爪で強烈な一撃を与えることができ、また、非常に鋭い歯で噛みついて相手の命を奪う可能性すら持っている。この獣がもたらす致死性は実際のダメージによる物ではなく、それが引き起こすと思われる恐ろしい病気による物である。さらに注目すべき点として、水に浸かるだけで回復できるという神秘的な能力が挙げられる。観察した結論として言えるのは、この野獣はとにかく避けるほうが懸命だということである。彼らの中には、完ぺきな真珠を身体の中に持つ者がいると言われているが、一体なぜ真珠を呑み込むのか、そこにどんな効用があるのかについては、まだ分かっていない。 エリトラ エリトラは大きな昆虫のような生物で、アイルズの広い範囲に棲む固有種である。北方種(マニア)と南方種(ディメンシャ)とでは著しい色の違いがあるものの、行動パターンと肉体的構造は極めて似ている。エリトラは戦闘時に役立つ2つの興味深い仕組みを持っており、不用意な旅行者にとっては重大な脅威となっている。1つ目の能力は、武器による攻撃を防ぐ不思議な能力である。たとえば剣や矢といった、自分に向かってくる攻撃を察知するための早期警戒システムとして、彼らが触覚を用いているのではないかと、観察を通じて私は推測するようになった。触覚から脳に信号が送られ、彼らは本能的に腕をあげて攻撃を防ぐのである。2つ目の能力は、彼らの針に含まれている自然な毒である。毒は非常に微量であり、それゆえに欺かれやすいが、実はその持続性が致命的な性質をもたらすのである。放っておいた場合、この毒で平均的な男性は数時間のうちに死にいたるのである。最も恐ろしいのはエリトラ・マトロンの毒で、より小さな種類が出す毒よりもずっと長い持続性を持っている。 肉の精霊 アイルズで最も風変わりな生物の一種である肉の精霊は、皮と筋肉とを縫い合わせたような塊が不可思議な象徴で飾られ、鉄の襟を身にまとった姿で現れる。この生物を創造したのがシェオゴラスなのか、あるいは他のデイドラの王子なのかは定かではないが、これらを守護者として用いることが創造の意図であったことは間違いない。肉の精霊は通常、地下の廃墟で見受けられ、守るように指定された地域を、身が滅びるまで守り続ける。この生物が持つ独特な視覚的特徴として挙げられるのが、身体にあるエネルギースポットである。その部分には色がついており、内部からの光で輝きながら、精霊が持つ力を示しているように見える。身体の大きさが増すにつれて、光の色が黄、紫、赤と変わるようである。そのスポットの機能については未だ謎であるが、観察を通じて、魔法を弱める腺のような物ではないかと私は推測している。期待にたがわず、肉の精霊は病気や毒には全く影響されず、炎と霜に対しても高い抵抗力を持っている。逆に雷撃の魔法はどうやら彼らに影響を及ぼすようで、最大の弱点のように思われる。紫と赤の種類の物は、治癒や火炎球などの魔法能力も生来持っているようである。 ナール おそらく最も奇妙な生物と言えるのが、時に「歩く木」と呼ばれることもあるナールである。この活動的な植物は、エリトラと同じように、アイルズのほぼどこでもうろつき回っている姿を見ることができる。シェオゴラスが創造した中でも最高に独特な生物の一つであるナールは、自分に向けられた魔法を利用して自らの防御力を強化することができるという、実に変わった特性を持っている。炎、霜、電撃のいずれかに打たれるとナールは物理的に大きくなり、攻撃に用いられた元素に対して、短い間、耐性を持つようになる。おもしろいことに、ナールの脆弱性が現れるのはその時なのである。攻撃された元素に対して耐性を発揮している間、他のすべての元素に対して脆くなってしまうからだ。我々の遠征のガイドは、まず炎の矢をナールに放ち、続いて霜の矢を放ち、また炎の矢を放つといった形で、その性質を実際に見せてくれた。 グラマイト グラマイトはシヴァリング・アイルズで唯一の、生まれつき武器を巧み操れる生物である。水の中で生まれるこの原始的な人型の生物は、部族的な体系で組織化されているが、誰あるいは何を崇拝しているのかは明らかではない。グラマイトの創造主であるシェオゴラスを崇拝しているとも考えられるが、彼らの宗教的なトーテム像は、マッドゴッドとは似ても似つかない物である。ただ分かっているのは彼らが単純な階層制度を保っていることで、その中には、シャーマンや、他の者たちに指令を出していると思われるボス・グラマイトなどが含まれる。またグラマイトは、マグス・グラマイトによって証明されたように、魔法のかけ方も習得している。不思議なことに、グラマイトはバリウォグのそれに似た防御の仕組みを有している。水に浸かれば、グラマイトの傷ついた肉体は回復を始めるのだ。バリウォグとは異なり、この再生の仕組みは雨でも有効であるため、嵐の日の彼らは恐るべき存在となる。水による治癒能力という共通性を理由に、私はバリウォグとグラマイトには何らかのつながりがあると信じるに至ったのだが、広範囲に及ぶ調査をしてもなお、確かな関係性を見つけることはできていない。 ハンガー シェオゴラスの暗い側面を象徴する生物がいるとすれば、ハンガーである。紛れもないデイドラの生物として生まれた彼らは、従者および番人としてここアイルズに配置されているのである。ハンガーをあなどってはいけない。彼らは優れた素早さと電撃を跳ね返す能力を持ち、犠牲となる者を疲労させる一時能力をも有しているのである。この恐ろしい生物に遭遇した際の最良の方法として私が勧められるのは、とにかく近寄らないようにするか、あるいは即座に殺してしまうことである。呪文を唱えることによりハンガーを召喚し、敵に立ち向かわせることができる魔法が存在しているとも言われているので、用心していただきたい。 スケイロン スケイロンもまた、シヴァリング・アイルズ固有の水生生物である。直立したバリウォグに驚くほど似ているスケイロンは、大きなヒレのついた腕と、背トゲをその特徴としている。この生物は通常は非常に恐るべき存在で、獲物の後を追ってゆっくると歩き回っている。その遅いスピードが弱点だと勘違いしてはいけない。スケイロンは驚くべき跳躍攻撃ができるため、かなり遠くから獲物に襲いかかることが可能なのだ。バリウォグとのつながりとしてもう一つ挙げられるのは、噛んだりかぎ爪を用いたりすることにより、獲物に病気を移すことができるという事実である。接近戦ではとてつもなく恐ろしい相手となり得るので、最大距離を取った上で呪文やミサイルを用いて攻撃することが望ましい。 シャンブルズ シャンブルズは、骨を用いて作ったアンデッドな構造物を、針金あるいは布きれを用いてつなぎ合わせたような姿をしている。奇妙なことに、彼らの組み立てに用いられている骨は、相互関係がまるでお構いなしのように見える。いくつか例を挙げるなら、頭蓋骨が膝のお皿になっていたり、脚の骨が腕になっていたりという具合なのである。シャンブルズはアンデッドかもしれないが、犠牲となる者を追いかける時には、まるで獲物を追う肉食動物のようである。骨っぽいアンデッドの仲間と同じように、シャンブルズは、病気、毒、麻痺に対して完全な耐性を持つ。また、すべての霜の魔法に対し、独特な耐性を有している。さらに、死を迎える際にシャンブルズは爆発し、見事な霜のシャワーを降らせる。この興味深い能力はどうやら、土壇場での防御機能として創造主によって付け加えられた物のようだ。私は元々この事実を知らなかったのだが、最も有能なガイドの一人が致命的な一撃をシャンブルズに与えた時に、初めて分かったのである。このアンデッド生物と戦うつもりなら、霜に対する防護物を必ず携帯するか、距離をおいて殺すようにすべきである。 皮を剥がれた猟犬 この忌まわしいアンデッド獣は、通常、アイルズに点在する廃墟の中あるいは周辺で遭遇することが多い。皮を剥がれた猟犬は身のこなしが非常に敏捷で、肉に対する飽くなき欲望を持っている。肉の精霊と同じように、皮と筋肉をぞんざいに縫い合わせたような姿をしているが、召喚された生物なのかあるいはただ単に組み立てられた物なのかについては定かでない。皮を剥がれた猟犬は決して侮れない敵である。まるで幽霊のように全く目にも留まらない突進攻撃ができるし、霜に対する有限の抵抗性を持ち、さらに、病気と毒に対する完全な免疫を持っているからだ。この獣の弱点は炎である。火におびえるほどの知性は持ち合わせていないようだが、彼らを手早く片づける方法として炎が非常に効果的であることは間違いない。 この著作は生物との戦いに関する側面のみに言及しているに過ぎないが、シヴァリング・アイルズの境界内を旅するすべての旅行者にとって、最重要な物だと私は感じている。今後の著作の中では、これらの生物が持つ別の側面、すなわち、再生産、創造、魔法的な起源、そしてさらには旅行中に私が発見したおいしい調理法にまで、触れてみるつもりである。アイルズの道を歩く際の最善の助言として私が言えるのは、常に慎重さを保ち、心の準備を怠らずにいることである。敵を知ることが、おぞましい死と生とを分ける境目になり得るのだ。 SI 生物学 緑3
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「物乞い」 レヴェン 著 エスラフ・エロルは豊かなノルドの王国、エロルガードの女王ラフィルコパと王者イッルアフのあいだに生まれた5人の子供たちの最後の子であった。妊娠中、女王は身長の2倍もの幅があり、分娩には開始から3ヶ月と6日間かかった。エスラフを押し出した後、彼女は顔をしかめ、「ああ、清々した」と言って亡くなったのは、なんとなく理解できる。 多くのノルド同様、イッルアフは妻のことはあまり気にかけてはいなかったし、子供たちはそれ以下であった。よって、彼がアトモラの古の伝統に従い、愛する配偶者の後を追うと宣言した時、家臣たちは戸惑った。彼らはこの2人がとりわけ愛し合っていたとも思っていなかったし、まずそのような伝統が存在していたことを知らなかった。それでも、北スカイリムの辺境、特に冬期は、退屈が一般的な問題であり、庶民たちはこの退屈を和らげてくれた、王家のちょっとした、それでいて劇的な出来事に感謝した。 彼は王室に仕えるもの全員と、太り、うるさい彼の5人の小さな相続人たちを前に集め、財産を分け与えた。息子イノップには彼の称号を、息子ラエルヌには彼の土地を、息子スオイバッドには彼の富を、娘ライスィフィトラには彼の軍隊をそれぞれ与えた。イッルアフの相談役たちは、王国のためにも遺産をすべてまとめておくことを提案したが、イッルアフは相談役の人々のことを、ついでに言えば王国のことさえもそれほど大切には思ってはいなかった。公表を終え、彼はダガーで喉を引き裂いた。 かなり内気な看護人の1人は、王の生命が徐々に消え行く中、ようやく話しかける決心がついた。「殿下、5人子、エスラフ様のことをお忘れですが」 イッルアフはうめき声をあげた。血が喉から吹き上げる最中、集中するのはいささか難しい。王者はむなしく何か遺贈できるものはないか考えたが、何も残っていなかった。 彼は口から血を飛ばし、いらつきながら言った。「では、エスラフも何か選べばよかったではないか」そして、亡くなった。 生まれて数日の赤ん坊が、彼の正当な遺産を要求することを期待されているのは、間違いなく不公平である。 誰も彼を引き取らないので、内気な看護人、デゥルスバが赤ん坊を家へと連れて行った。それは老朽化した小さな小屋で、その後の数年間で、さらに老朽化していった。仕事が見つからず、デゥルスバは家財道具をすべて売り払い、エスラフのための食べ物を買った。彼が歩き、喋れる歳になったころには、彼女は壁や天井も売ってしまっていたので、家と呼べるものは床しかなかった。もし、あなたがスカイリムへ行ったことがあるのであれば、その状況がどれだけ不十分かを理解してもらえるであろう。 デゥルスバはエスラフに、彼が生まれたときの話も、彼の兄弟が遺産でかなり良い生活をしている話もしていない。前にも述べたように、彼女は内気であり、その話題を切り出すことを難しく感じていた。彼女がどれほど内気なのかの証拠に、彼がどこから来たのかに関して少しでも質問すると、デゥルスバは走って逃げてしまうのである。実際それが、逃げることが彼女のすべてに対する答えなのである。 とにかく、彼女と話をするために、エスラフは歩くことを覚えるとほぼ同時に走ることを覚えた。最初は義理の母についていけなかったが、時と共に、早く短い短距離走を予測した場合は、つま先を主に使って走り、デゥルスバが長距離走に旅立ちそうなときは、競歩のようにかかとを主に使って走ることを学んだ。彼女からは必要な答えのすべてを得られなかったが、走ることだけはしっかりと覚えた。 エスラフが成長していた数年間で、エロルガード王国は残酷な場所になっていた。王者イノップには公庫がなかった。富はすべてスオイバッドが引き継いだのである、王者には土地からの収入がなかった。土地はラエルヌが引き継いだのである、王者には民を保護する軍がなかった。ライスィフィトラが軍を引き継いだのである。さらに、彼は子供であったため、王国のすべての決定は、予想以上に腐敗した評議会を通っていた。王国は、搾取的に税が高い国となり、犯罪は頻発し、近隣国から定期的に侵略を受けていた。タムリエルの王国として特に異例の状況とは言えないが、とはいえ嫌な状況ではあった。 ついに収税官がデゥルスバのあばら家にきて、この家の状況から徴収できる唯一のもの、床を持っていってしまった。抗議するよりも、この可哀想で内気な女性は走り去ってしまい、エスラフは2度と彼女の姿を見ることはなかった。 家もなく、母もおらず、エスラフはどうしたらよいのか分からなかった。寒さにはデゥルスバの家で慣れていたが、彼は空腹であった。 「肉を一切れくれませんか?」彼は街路を少し下ったところにいるブッチャーに聞いてみた。「すごくお腹が空いてます」 この男は少年のことを何年も前から知っていて、しばしば妻に、この子が天井も壁もない家で暮らしていることをどれだけ気の毒に思っているかを話していた。男はエスラフに微笑みかけ、「どこか他へ行け、さもなくば叩くぞ」と言った。 エスラフは急いでブッチャーの下を去り、近くの酒場へ向かった。酒場の主人はかつて王者の宮廷で従者をしており、この少年が本来ならば王子であることを知っていた。この可哀想な少年が街路を歩く姿を何度も見ており、その都度、運命の残酷さにため息をついた。 「何か食べるものをくれませんか?」と、エスラフは酒場の主人に聞いた。「すごくお腹が空いてます」 「俺がおまえを料理して食っちまわないで、良かったな」と、酒場の主人は答えた。 エスラフは急いで酒場を後にした。その後、一日中、少年はエロルガードの善良な民に食べ物を乞うた。一人だけ、彼に何かを投げてくれたが、それは食べられない石であった。 夜が迫ったとき、ぼろぼろの服を着た男がエスラフに近づき、何も言わずに果物と干し肉を手渡した。少年は受け取り、目を見開き、むさぼり食いながら男に愛想よく感謝した。 「もし明日、おまえが街路で物乞いをしている姿を見かけたら……」男はうなった。「おまえを殺してやる。ギルドが1つの街に許可する物乞いの数は決まっている。おまえは、丁度その枠から溢れる。商売あがったりだ」 エスラフ・エロルは走り方を学んでおいて幸運であった。彼は一晩中走った。 エスラフ・エロルの物語は「盗賊」という本に続く。 物語(歴史小説) 茶2 「盗賊」 レヴェン 著 もしこのエスラフ・エロールの連続物語の第1巻、「物乞い」を読んでいないのなら、すぐさまこの本を閉じて出直していただきたい。 さて、今この本を閉じなかったお優しい読者の方、あなたにならお話ししよう。私が最後にエスラフを見た時、彼はまだ少年だった。彼は孤児で、物乞いとなり、彼の故郷であるエロルガードから遠く離れたスカイリムの冬の荒野を走り抜けていた。彼は長年、そこここで走っては止まりを繰り返し、大人になった。 食べ物を得る方法でもっともやっかいなのは人から恵んでもらうことだと、エスラフは身をもって体験していた。荒野の中で食べ物を見つける方がはるかに易しく、もしくは誰も見てない市場の棚から盗むほうが簡単だ。唯一やってはいけないことは食料を買うお金を得るために働き口を探すことだ。これは必要以上にやっかいなことになる。 エスラフにとっては、ゴミ漁りや物乞い、泥棒するほうが楽であった。 初めて盗みを犯したのはエロルガードから出た直後、ホアベルドのちょうど東に位置する村、ジェンセン山近くにある岩だらけの場所にあるタンバーカー南部の森の中であった。エスラフはひどくお腹が空いていた。4日間で口にしたのはガリガリにやせ細った生のリスだけだった。その時、肉の焼けるにおいと煙があがっているのが見えた。吟遊詩人の一団が野営をしていたのだ。エスラフは茂みの中からそっと覗き、彼らが料理をこしらえ、笑い、戯れ、歌を歌っているのが見えた。 食料を恵んでもらえるよう頼んでいたが、それまでの道中ずっと断られていた。だからエスラフは走って飛び出し、肉をつかみ取り、火にたじろいでそのまま近くにあった木によじ登ってガツガツと食べ始めた。その間、吟遊詩人たちは木の下から彼を見上げ、笑っていた。 「この後はどうする気だい? 泥棒さん」そう言いながら笑っていたのは赤髪の美しい女で、体中にタトゥーを入れていた。「あたしたちに捕まってお仕置きされないように、どうやってここから出て行くのかしら?」 空腹が満たされてくると、エスラフは彼女の言うことももっともだと思った。彼らの輪の中に落ちることなくここから逃げる唯一の方法は、小川の方へと伸びる枝を伝って下りていくしかなかった。一歩間違えば50フィートほどの崖の下へと落ちてしまう。しかし、この方法が一番賢い策だと考え、エスラフはゆっくり枝の方へと這っていった。 「安全な落ち方は知ってるのか?」カジートの若者が叫んだ。エスラフよりやや年上のようで、華奢な体つきであったが筋肉はついており、ちょっとした動きにも優雅さが感じられた。「そんなことはやめて、こっちへ下りて来い。首を折っちまうような馬鹿な真似はやめろよ。それよりもお前を何発か殴ったら、家まで送り届けてやるよ」 「もちろん、落ち方ぐらい知ってるさ」エスラフは返事をしたが、彼らのほうへは戻らなかった。もちろん落ち方のコツなんてものは知らず、あとは成り行きに任せるしかないと思った。だが、50フィートもの高さから下を見下ろせば、誰もが動けなくなるだろう。 「大盗賊さんよ、あんたを見くびって悪かった」カジートはニッコリ笑いながら言った。「知ってると思うが、足から真っ直ぐ落ちると、卵みたいに割れちゃうぜ。まあ、それでも俺たちの手から逃げられることにはなるがな」 エスラフはカジートのヒントを受け、川へと飛び込んだ。優雅に、とは言えないまでも彼は無傷であった。年月が過ぎ、彼はこれよりも高い場所から飛び降りる場面に何度か出くわした、もちろん大体は盗みを働いた後にということだ。時には下に水がないときもあったが、彼は基本的な技を学んでいった。 エスラフは21歳の誕生日の朝、ジャレンハイムの町を訪れた。誰がこの町で一番の金持ちで、泥棒に入るのに絶好の相手か、すぐにわかった。この町の中心に難攻不落の宮殿がそびえたっており、その持ち主はスオイバッドという、神秘的な雰囲気の若い男だった。エスラフはすぐに宮殿を見つけ、観察した。これまでの彼の経験からいうと、このような要塞化された宮殿に住む人間には、頑丈な警備で固められた地下に物を隠すおかしな癖がある。 その宮殿は新しく、そのあたりから察するに、スオイバッドが金を手に入れたのもつい最近のことであろう。衛兵が定期的に見回りをしていることから、盗みに入られるのを恐れているようだ。この宮殿で特徴的といえるのが、石壁よりも100フィートも高くそびえる塔だった。このスオイバッドという男がエスラフが考えるような偏執症であれば、その塔から宮殿内の宝庫の場所が分かるだろう。金持ちというのは自分の財産をいつでも目にすることができるようにするものだ。つまり、この塔の真下に金目のものがあるのではなく、城内の中庭のどこかにあるのだ。 塔の照明灯は一晩中点けられていたので、エスラフは大胆にも真昼の時間帯に狙おうとした。おそらくスオイバッドも寝ているに違いないと考えた。衛兵もよもやそんな時間帯を狙って泥棒が入ってくるとは思っていないだろう。 そういうわけで、真昼の太陽が宮殿を照らすころ、エスラフは正門近くの壁をよじ登り、胸壁の裏に隠れて待った。中庭は平坦で荒涼としており、隠れる場所はほとんどなかったが、2つの井戸が見えた。1つは衛兵たちが時折水をくみ、喉の渇きを癒していた。しかし、もう1つのほうにはまったく衛兵が立ち寄らないことに気づいた。 宮殿に金品を運びこむ商人の馬車が通り、衛兵たちの気がそれる短いチャンスが訪れるまで待った。皆の注意が馬車に向いてるのを確認し、エスラフは壁から井戸の方へ足元から優雅に飛びこんだ。 軟着陸とは行かなかった。というのも井戸にはエスラフがにらんだとおり水ではなく、財宝で埋め尽くされていたからだ。それでも、彼は落ちたあとの受け身の取り方も学んでいたので、傷1つなかった。じめじめした地下の宝庫であったが、ポケットに詰めれるだけ詰め、まさにその場を立ち去ろうとしたその時、塔へと続くらしいドアのところにリンゴほどの大きさの宝石を見つけた。ここにある中で一番高価なものだと思ったエスラフは、パンツを広げそこへねじこんだ。 ドアは塔へと続いており、エスラフは静かに、すばやく階段の吹き抜けを上っていった。頂上へ到着すると、この宮殿の主の私室へと辿り着いた。そこは豪勢な装飾が施され、大変貴重な美術作品やら、飾りつきの剣や盾が壁に飾られていた。エスラフは、おそらくシーツの下でいびきをかいてるのがスオイバッドだと思った。彼はそれ以上は調べようとせず、窓へ這って進み、鍵を外した。 この高さからのジャンプは危険だろう。塔から壁を通り越し、反対側の木の枝まで飛ばなければいけなかった。木の枝で怪我をしてしまうかもしれないが、その下には怪我を防げそうな干草の山があった。 エスラフがその部屋から飛び出そうとしたその瞬間、部屋の主が目覚めて「私の宝石!」と叫んだ。 エスラフは目を大きく見開いて部屋の主としばし見つめ合った。彼らは瓜二つだった。驚くべきことではない、彼らは兄弟であったのだ。 この話は「戦士」の巻へと続く。 物語(歴史小説) 茶2 「戦士」 レヴェン 著 この本は4巻の本からなる連続物語の3巻目になっている。もし最初の2巻、「物乞い」および「盗賊」を読んでいない場合は、そちらを読むことをお勧めする。 スオイバッド・エロルは自分の過去についてあまり知らなかったし、知りたいとも思ってはいなかった。 子供のころ、彼はエロルガードで暮らしていたが、王国はとても困窮しており、その結果、税金は非常に高かった。彼は多額の遺産を管理するには若すぎたが、彼の破滅を心配した召使いたちが彼をジャレンハイムに移動させた。なぜその地が選ばれたのかは誰も知らない。とうの昔に死んだ召使いの1人が、子供を育てるには良い場所だと思ったのであろう。他に案を持つものもいなかった。 若きスオイバッドよりも甘やかされて育った子供たちもいると思うかもしれないが、恐らく実際にはそんなことはないだろう。育つにつれ、彼は自分が金持ちであることを理解したが、他には何もなかった。家族も社会的地位もなく、警護もまるでなかった。忠誠心は真には買えないと知ったのは1度ではない。自分に巨大な財産という強みしかないことを充分に分かっている彼は、それを守り、そして可能であれば増やすことに必死になった。 一般的にも、良い人たちの中に強欲なものはいるが、スオイバッドは富の入手と貯蓄以外にはまったく興味を持たない珍しい人種であった。彼は富を増やすためならば何でもするつもりで、彼は実際に、魅力的な土地を攻撃するための傭兵を秘密裏に雇い、その後、誰も住みたがらなくなったときに買い上げるといった方法をとった。当然、攻撃はそれで止み、スオイバッドは有益な土地を格安で手に入れることになる。最初はいくつかの小さな農家から始まったが、最近はさらに野心的な作戦行動を行い始めている。 北中央スカイリムには、地理的に興味深いアールトと呼ばれる地域がある。そこは周囲を氷河によって囲まれている休火山低地であるため、土壌は火山によって温められるが、常に霧雨状態で空気は冷たい。そこではジャズベイと呼ばれるブドウが快適に育つが、それはタムリエルの他のどの場所でも萎れて死んでしまう。この奇妙なブドウ園は私有物であるため、そのブドウから作り出されるワインには希少価値があり、極めて高価である。皇帝がこのワインを年に一度飲むには、帝都評議会の許可が必要であると言われている程である。 アールトの所有者を苦しめ、彼の土地を安く手放させるためには、かなりの数の傭兵を雇わねばならなかった。よって彼は、スカイリムにおける最高の私兵集団を雇う必要があった。 スオイバッドはお金を使うことが好きではなかったが、リンゴと同じ大きさの宝石を、ライスィフィトラと呼ばれる将軍に支払うことを承知した。もちろん、支払いは任務が成功したときに行なわれるので、まだ渡してはいなかったが。しかし、こんな素晴らしいものを手放すことを分かっている彼は、夜も眠れなかった。彼は盗賊が夜うろつくのを知っていたので、倉庫を監視するためにいつも日中に寝た。 ある日、うつらうつらした眠りからスオイバッドが昼頃に起き、突然、彼の寝室で盗賊に出くわした。その盗賊こそ、エスラフであった。 エスラフはどのように窓から飛び降り、要塞化された大邸宅の壁の表にある百フィート下の木々の枝に体をあて、いかに積んである干草に身を投じるかを沈思していた。そのような離れ技に挑戦したことがある人はおそらく、かなりの集中力と度胸が必要であると言うであろう。寝ている富豪が起きたのを見たとき、その両方とも吹き飛んでしまい、エスラフは飾ってある装飾用の大きな盾の裏に潜み、スオイバッドが再び眠りにつくのを待った。 スオイバッドが再び寝ることはなかった。彼は何も聞いてはいないが、誰かが一緒に部屋の中にいることを感じた。彼は立ち上がり、部屋の中をうろうろし始めた。 スオイバッドは歩き回ったが、徐々に自分が想像しているだけだと思い込んだ。そこには誰もいない。彼の富は無事だ。 何か物音を聞いたとき、彼はベッドに戻りかけていた。振り向くと、ライスィフィトラに渡すことになっている宝石が、アトモラの騎兵用の盾から少し離れた床上に見えた。盾の裏から手が伸びてきて、それを拾い上げた。 「盗賊だ!」スオイバッドは叫び、宝石で装飾されたアカヴィリ剣を壁からつかみ下ろし、盾に向かって突進していった。 エスラフとスオイバッドの「戦い」は偉大な決闘の記録には残らない。スオイバッドは剣の扱いを知らなかったし、エスラフは盾による防御に関して無知であった。その戦いはぎこちなく、不細工であった。スオイバッドは激怒していたが、繊細な飾り付けを傷めて価値を下げてしまうような使い方を心理的にできなかった。エスラフは盾を彼と剣の間に置くようにしながら、盾を引きずりつつ動き続けた。何といっても、それが盾防御の要である。 スオイバッドは盾を殴りながら叫び、その盾は殴られる反動で部屋を移動していった。宝石はライスィフィトラという名の偉大な戦士に約束されていると説明し、返してくれるならスオイバッドは喜んで他のものを渡すと、彼は盗賊と交渉すら試みた。エスラフは天才ではなかったが、それでもそれが嘘だと判った。 主人の呼び出しに応え、スオイバッドの衛兵が寝室に到着したときには、窓の近くまで盾を追いつめていた。 スオイバッドよりも遥かに剣の力量に富む彼らは盾にのし掛かったが、そこには誰もいなかった。すでにエスラフは窓から飛び降り逃走していたのだ。 懐にしまったゴールドを鳴らし、巨大な宝石が体に擦れるのを感じつつ、ジャレンハイムの街路を重そうに走るエスラフは、どこに行けば良いのか分からなかった。ただ、この街にはもう戻れないということと、宝石の所有権を持つライスィフィトラという名の戦士に会うことだけは絶対に避けなければならないことはわかっていた。 エスラフ・エロルの物語は、「王者」に続く 物語(歴史小説) 茶2 「王者」 レヴェン 著 読者諸君、この連続物語の3巻、「物乞い」「盗賊」「戦士」を読み、記憶に留めていない場合は、結末へとたどり着くこの最終巻に書かれている内容を理解することは難しいだろう。お近くの本屋でのお求めをお勧めする。 前回の物語は、いつもの如くエスラフ・エロルが命をかけて逃走しているところで幕を閉じた。彼は多量の金と非常に大きな宝石を、ジャレンハイムのスオイバッドという名の富豪から盗んだ。その盗賊は北へと逃げ、盗賊らしくありとあらゆる非道徳的な快楽のために、金を湯水の如く使った。この本を読んでいる淑女や紳士を動揺させてしまうような内容なので、詳しくは述べないことにする。 手放さなかったのはあの宝石だけである。 愛着があって手放さなかったわけではなく、彼から買い取れるほどの金持ちを知らなかったからである。何百万もの価値がある宝石を手にしながら、無一文という皮肉な状況に彼は陥っていた。 「これと交換で、部屋とパンとビールの大瓶をくれないか?」あまりにも北すぎて、その半分が亡霊の海に面する小さな村、クラヴェンスワードの酒場の店主に彼は聞いた。 酒場の店主はそれを疑わしげに見た。 「ただの水晶だよ」と、エスラフはすぐさま言った。「でも、きれいじゃない?」 「ちょっと見せて」鎧に身を固め、カウンターの端にいた女性が言った。許可を待たずに彼女は宝石を手に取り、見つめ、そしてあまり優しくなさそうな笑みをエスラフに向けた。「私のテーブルで一緒にどう?」 「実は、ちょっと急いでいるので」と、宝石に向かって手を伸ばしながらエスラフは答えた。「またの機会に」 「友であるこの酒場の店主に敬意を表して、私も部下も皆、ここにくるときは武器を置いてくる」宝石を返さず、カウンターに立てかけてあったほうきを手に取りながら、何気なく彼女は言った。「でも、これだけは断言できるわ。私はこれを武器としてかなり有効に使える。もちろん、武器ではないけれど、気絶させるたり骨の1本や2本を折る程度、そして── 1度中に入ったら……」 「どのテーブルだい?」エスラフは即座に聞いた。 その若い女性は、エスラフがいまだに見たことがないほど大きなノルドが10人座っている、酒場の裏にある大きなテーブルへと彼を連れて行った。彼らはエスラフのことを、踏み潰す前に一瞬の観察に値する奇妙な虫であるかのような無関心さで見つめた。 「私の名前はライスィフィトラ」と彼女は言い、エスラフは瞬きをした。それはエスラフが逃走する前に、スオイバッドが口にした名前であった。「彼らは私の副官たち。私は気高い騎士たちから成る大きな独立した軍の指揮官。スカイリム最高の軍よ。つい最近、ラエルヌと言う男が我々の雇い主がスオイバッドと言う男にブドウ園を売り渡すことを強要するため、アールトにあるブドウ園を攻撃する仕事を与えられたわ。我々の報酬は、とても有名で間違えようのない、飛び抜けた大きさと質の宝石のはずだったの」 「依頼通りにやり遂げ、スオイバッドの下に謝礼を受け取りに行ったら、彼は最近泥棒に入られたために支払えないといったわ。でも最終的には私たちの言うことを聞き、貴重な宝石の価値に匹敵するくらいの金を支払った。彼の宝物庫を空にはしなかったけれど、結局はアールトの土地を買えないことになったわ。よって、私たちは十分な支払いを受けられなかったし、スオイバッドは金銭的な痛手を負い、ラエルヌの貴重なジャズベイは一時的に意味もなく台無しにされたの」ライスィフィトラは続ける前に、ゆっくりとはちみつ酒を1口飲んだ。「さて、よく分からないから教えてくれない? 私たちが手に入れるはずだった宝石を、どうしてあなたが持っているの?」 エスラフはすぐには答えなかった。 その代わり、左にいる髭を生やした蛮族の皿からパンを1切れ取り、食べた。 「すまない」と口をモグモグさせながら彼は言った。「いいかい? 宝石を取ることは、やめたくてもやめられないし、実際のところ別に構わない。そして、どのようにして私の手に入ったかを否定するのも無駄なことだ。要するに、これは、あなたの雇い主から盗んだ。もちろん、あなたや気高い騎士たちに被害を加えるつもりはなかったが、あなたのような人にとって、盗賊の言葉など相応しくない理由も理解できる」 「そうね」ライスィフィトラは答え、顔をしかめたが、目は面白がっているようである。「相応しくないわね」 「でも私を殺す前に──」エスラフはパンをもう1切れつかんで言った。「教えてくれ、あなたのように気高い騎士が、1つの仕事で2度報酬を得るのは相応しいことなのか? 私にはなんの名誉もないが、支払いのためにスオイバッドが損害を被り、今はその宝石を手にしている。よって、あなたの莫大な利益はあまり誇れるものではないと思うのだが」 ライスィフィトラはほうきを拾い上げ、エスラフを見た。そして笑い、「盗賊よ、名は?」 「エスラフ」と、盗賊は言った。 「今回は我々に約束されていたものなので、宝石はいただくわ。しかし、あなたは正しい。1つの仕事で2度支払いを受けるべきではないわ。なので──」ほうきを置きながら女戦士は言い、「あなたが我々の雇い主よ。我々に、何をさせますか?」 多くの人々は自分の軍隊にかなりの使い道を見出すであろうが、エスラフはその1人ではなかった。頭の中を捜してみたが、最終的には、後に支払われる貸しにしておくことに決まった。彼女の野蛮性にも関わらず、ライスィフィトラは素朴な女性であり、彼女が指揮するその軍に育てられたことを彼は知った。戦闘と名誉が彼女の知るすべてであった。 エスラフがクラヴェンスワードを離れたとき、彼には軍の後ろ盾があったが、1ゴールドすら持っていなかった。近いうちに何かを盗まなければいけないのは分かっていた。 食べ物を拾い集めようと森の中をさまよっていると、彼は奇妙な懐かしさに襲われた。ここはまさしく子供のころにいた森で、当時も空腹で食べ物を拾っていた。道に出たとき、彼は優しく間抜けで内気な召使い、デゥルスバによって育てられた王国に戻ってきたことに気付いた。 彼はエロルガードにいたのだ。 そこは彼の幼少期よりもさらに絶望の深みへと堕ちていた。彼に食べ物を拒否した店の数々は皆、板が打ち付けられ放棄されていた。そこに残されている人々は皆、うつろで絶望した姿であり、彼らは税金、専制政治、野蛮人の侵略によってやつれきっていて、弱りすぎて逃げることすらできない人々であった。エスラフは、若いころにここから出られた自分がどれだけ幸運だったかを実感した。 しかし、そこには城があり、王者がいる。エスラフはすぐさま公庫に侵入する計画を練った。普段どおりその場を注意深く観察し、警備や衛兵の習慣などを記録した。これには時間がかかったが、結局、警備も衛兵も存在しないことに彼は気付いた。 彼は正面の扉から中に入り、がら空きの廊下を下って公庫へ向かった。そこは、何もなさで満ちていた。1人の男が居る以外は。彼はエスラフと同年代だったが、さらに老けて見えた。 「盗むものは何もない」と、彼は言った。「かつて存在したこともないがな」 王者イノップは年齢以上に老けているが、エスラフ同様の白金髪、そして割れた硝子のような青い眼を持っていた。その上、スオイバッドやライスィフィトラにも似ていた。エスラフは破滅させられたアールトの地主、ラエルヌとは知り合いにこそならなかったが、見た目は似ている。当然のことである。彼らは兄弟なのだから。 「何も持っていないのか?」と、エスラフは優しく聞いた。 「この王国以外は何もない。忌々しいことだが」王者はぼやいた。「私が玉座に就くまでは強力で、富んでいたのだが、私はそのどれも相続しなかった、ただ称号のみ。私の全人生に責任がのし掛かっていたが、それを正しく推し進める資質を持ったこともなかった。生得の権利であるこの荒野を見渡すと嫌になる。もし王国を盗むことが可能であるならば、それを止めたりなどしない」 結局、エスラフは王国を盗むことにした。それからしばらく後、エスラフがイノップとして知られるようになったが、それは身体的な相似から容易な偽装であった。本物のイノップはイレキルヌと名を変え、喜んで彼の領地を離れ、最終的にはアールトのブドウ園で素朴な労働者となった。初めて責任から開放された彼は、心から喜んで新しい人生に取り組み、そして長い年月が彼から溶け出した。 新しいイノップはライスィフィトラへの貸しを回収し、彼女の軍を使ってエロルガード王国に平和を取り戻した。安全になった今、商売や交易がその地に戻り、エスラフは税額を下げ、それらの成長を促した。それを聞き、常に富を失うことを恐れているスオイバッドは、生誕の地へ戻ることを決心した。彼が何年か後に死ぬとき、彼はその強欲から相続人の指名を拒否したため、王国が彼の全財産を受け取った。 本物のイノップからいい評判を聞いたエスラフは、その財産の一部を使ってアールトのブドウ園を購入した。 これによってエロルガードは、王者イッルアフの5人目の子によって以前の繁栄に返り咲いた── エスラフ・エロル、物乞い、盗賊、お粗末な戦士、そして、王者。 物語(歴史小説) 茶2
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謎かけの赤い本 この手軽な書物にこそ、様々な謎かけやおふざけが収められ、入念な研究を通じ、教養ある慎重な紳士は、同輩の者たちの鋭い才知により当惑させられることはなくなるだろう。 [西方の貴族社会では謎かけの応酬は慣習の一つとなっている。貴族や社交界での活躍を図る者たちは謎かけの本を集めて研究し、会話の際に狡猾にして機知に富んでいる印象を与えられるよう、努力を重ねるという。] 問いかけ: 汗水流して働けど 暮らし良くなる気配無し 努力の挙句に手元に残るは 返し: これぞドレイク金貨なり 問いかけ: 人とエルフの心とは 詩人こそ知るところなり 熊に詩吟を詠ませたら 返し: 瞬く間にのけものなり 問いかけ: 爺を殴って殴りつけ 見慣れぬ顔に仰天す 慌てて周囲を見まわせど 返し: 殴る拳を違えたか 詩歌 赤3
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2920 真央の月(6巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 真央の月2日 バルモラ (モロウウィンド) 「帝都軍が南に集結しております」キャシールは言った。「二週間の進軍でアルド・イウバルとコロチナ湖に到達するでしょう。それと、きわめて重装備でありました」 ヴィヴェックはうなずいた。アルド・イウバルと湖の対岸の姉妹都市、アルド・マラクは戦略の要地とされる城砦だった。ここしばらく、敵が動くのではないかと懸念していた。ヴィヴェックに仕える将軍がモロウウィンド南西部の地図を壁から引きはがすと、開け放しの窓から舞い込んでくる心地よい夏の海風と格闘しながら、手で撫でつけてまっすぐに伸ばした。 「重装備だと言ったな?」と、将軍は訊いた。 「はい、将軍」キャシールは言った。「ハートランドはベサル・グレイにて野営しておりました。どの鎧も黒檀製やドワーフもの、デイドラものばかりで、上等な武具や攻城兵器も確認できました」 「魔術師や船は?」と、ヴィヴェックは訊いた。 「魔闘士の軍団がおりましたが──」キャシールは答えた。「船はないものかと」 「それほどの重装備なら、ベサル・グレイからコロチナ湖までは確かに二週間はかかる」ヴィヴェックは地図をじっくりとながめた。「さらに北からまわり込んでアルド・マラクへ向かおうとすれば、沼地にはまってもたつくことになろう。となれば、この海峡を越えてアルド・イウバルを攻め落とそうと考えるにちがいない。それから湖岸沿いに東進し、南からアルド・マラクを奪おうとする」 「海峡を越えてくるなら、やつらは袋のねずみですな」と、将軍は言った。「半分ほど渡りきってしまえばもうハートランドには引き返せない。そこで一気に襲いかかるのです」 「またもやそなたの機知に助けられたようだ」ヴィヴェックはそう言い、キャシールに笑いかけた。「今一度、帝都の侵略者どもを撃退してやろうぞ」 2920年 真央の月3日 ベサル・グレイ (シロディール) 「勝利しておきながら、かように帰還なさるおつもりですか?」ベサル卿は訊いた。 ジュイレック王子はまるでうわの空だった。野営地の後片づけをしている軍隊に意識を集中させていた。肌寒い森の朝だったが、雲ってはいなかった。午後の進軍は暑さとの戦いになりそうだった。これだけの重装備ならなおさらだ。 「早期撤退は敗北してこそするものでしょう」と、王子は言った。遠くの牧草地で、支配者ヴェルシデュ・シャイエが、村の食料や酒、それに女を用立ててくれた執事に謝金を渡しているのが見えた。軍隊とはじつに金がかかるものだ。 「しかしながら、王子……」と、ベサル卿は不安げに訊いた。「このまま東進なさるおつもりですか? それではコロチナ湖の湖畔にたどりつくだけでしょう。南東から海峡へ向かわれたほうがよいのでは」「あなたは村の商人が約束の報酬をもらったかどうかを案じていればいい」と、王子は笑みを浮かべて言った。「軍隊の行き先は私が考えましょう」 2920年 真央の月16日 コロチナ湖 (モロウウィンド) ヴィヴェックは広大な青い湖面の向こうをながめた。みずからと軍の姿が青い水面に映りこんでいた。が、帝都軍の姿は映り込んではいなかった。森で待ち受ける災難を嫌って、とっくに海峡へ到着しているはずだった。羽のように薄っぺらなひょろ長い湖岸の木々が邪魔になって海峡の様子はほとんどうかがえなかったが、かさばる重装備に身を包んだ一団が誰の目にもとまらずに音もなく移動することなど不可能だった。 「もう一度地図を見せてくれ」ヴィヴェックは将軍を呼ばわった。「他の進路があるとは考えられないか?」 「北の沼地には哨兵を配備しております。浅はかにも、やつらが沼地に入ってもがいている可能性もないとは言えませんからな」と、将軍は言った。「少なくとも報告があるでしょう。が、湖を越えるとしたら海峡を抜けるより他はありません」 ヴィヴェックはまた湖面に映った影を見つめた。彼をからかうようにゆらゆらと揺れていた。それから、ヴィヴェックは地図に視線を戻した。 「スパイか……」ヴィヴェックはそう言うと、キャシールを呼びつけた。「敵軍は魔闘士の一団を引き連れていたと言ったが、どうして魔闘士だとわかったのだ?」 「灰色の法衣に謎めいた紋章を身につけておりましたから……」と、キャシールは述べた。「魔闘士だと直感しました。あれだけの大人数でしたし。軍が治癒師ばかりを同道させているとは思えませんので」 「浅はかなやつめ!」ヴィヴェックは怒鳴った。「やつらは変性の技巧を学んだ神秘士なのだぞ。水中呼吸の魔法を全軍にかけたにちがいない」 ヴィヴェックは手ごろな見通しのきく場所へ走って、北の方角を見渡した。水平線に浮かぶ小さな影でしかなかったが、対岸のアルド・マラクから襲撃の火の手があがっているのが見えた。ヴィヴェックは怒りの雄たけびをもらした。将軍はただちに、城砦を守るべく湖をまわり込むよう軍隊に指示を出しなおした。 「ドワイネンに帰れ」ヴィヴェックはキャシールに向かって言い放つと、戦いに加勢すべく出発した。「わが軍はもはやおまえの力を必要としていない」 モロウウィンド軍がアルド・マラクに迫ったときにはもう手遅れだった。街は帝都軍の手に落ちていた。 2920年 真央の月19日 シロディール領帝都 支配者ヴェルシデュ・シャイエが帝都に凱旋すると、熱烈な歓迎が待っていた。男も女も通りにずらりと並んで、アルド・マラク陥落の象徴である大君主を褒め称えた。王子が帰還していたらこれ以上の群集が出迎えたであろうことは、シャイエにもわかっていた。それでも、彼は大いに気を良くしていた。タムリエルの民がアカヴィル人の到着を歓迎するなど、それまでにないことだった。 皇帝レマン三世は心のこもった抱擁で彼を出迎えると、やおら王子から届いた手紙を突きつけてきた。 「どういうことかね」皇帝はようやく言った。喜んでいながらもとまどっていた。「湖にもぐったと?」 「アルド・マラクは、難攻不落の要塞です」大君主はそう言った。「それに加えて、われらの動きを警戒しているモロウウィンド軍が周囲を巡回しています。攻め落とすには不意を突いて、鎧の頑丈さにものを言わせて攻撃するしかありません。水中でも呼吸できる魔法をかけることで、われらはヴィヴェックに感づかれないうちに移動することができました。水中では鎧の重みもさほど気になりません。そして守備のもっとも手薄な砦の西側の水締めから攻め入ったのです」 「すばらしい!」皇帝は歓声をあげた。「驚くべき戦術家だな、ヴェルシデュ・シャイエよ! そなたの父親にもそれだけの才覚があったら、タムリエルはアカヴィルの領土になっていただろう!」 実のところ、その計画はジュイレック王子が考えたものだった。シャイエとしては、王子の功績を横取りする気はみじんもなかったが、大失敗に終わった260年前の祖先の侵略のことに皇帝が触れたとき、決心したのだった。シャイエは控えめな笑みを浮かべて、おもうぞんぶん賞賛を味わった。 2920年 真央の月21日 アルド・マラク (モロウウィンド) サヴィリエン・チョラックは腹ばいになって壁まで進み、モロウウィンド軍が沼地と砦に挟まれた森の中へ撤退していくのを銃眼からじっと見つめた。絶好の攻撃の機会のように思われた。敵軍もろとも森を焼き払ってしまえばいい。ヴィヴェックさえ捕らえてしまえば、敵軍はアルド・イウバルもおとなしく明け渡すかもしれない。ショラックはその案を王子に持ちかけてみた。 「ひとつ忘れているようだけど」ジュイレック王子は一笑にふした。「休戦交渉中は敵の兵士や指揮官に手を出さないと約束しているんだ。アカヴィルでの戦いに誇りは不要なのかい?」 「お言葉ながら、私はタムリエルで生まれ育ち、祖国を訪れたことはございません」蛇男は答えた。「が、それでも、あなたの流儀はどうも解せない。五ヶ月前に帝都の闘技場で戦ったときも、あなたは金銭を求めようとせず、私は一銭も払わなかった」 「あれは遊びだから」王子はそう言うと、執事にうなずいてみせ、ダンマーの戦士長を迎え入れた。 ジュイレックがヴィヴェックに会うのは初めてだった。この男が神の化身であるという話は聞いていたが、目の前に現れたのはひとりの男だった。屈強で端正な顔した男で、知性にあふれる顔をしていたものの、やはりただの男だった。王子はほっとした。ただの男となら話せる。神であるなら話はべつだが。 「はじめまして、わが称えるべき好敵手」と、ヴィヴェックは言った。「お互いに手詰まりのようだな」 「そうともかぎりません」王子は言った。「あなたはモロウウィンドを明け渡したくはないし、私としてもそれをとがめることはできません。が、外敵の侵略から帝都を守るため、モロウウィンドの沿岸地域はどうしても押さえておきたい。それと、この場所のような、戦略の要地である国境の砦もほしい。アルド・ウンベイル、テル・アルーン、アルド・ランバシ、テル・モスリブラもすべて」 「して、見返りは?」と、ヴィヴェックは訊いた。 「見返りだと?」サヴィリエン・チョラックは笑い飛ばした。「いいか、勝者はわれらだ。おまえじゃない」 「見返りとして」ジュイレック王子は慎重になって言った。「帝都はモロウウィンドを襲わないと約束しましょう。もちろん、そちらから攻めてきた場合は別として。侵略者があれば、帝都海軍が助けに駆けつけましょう。それから、領土も分け与えましょう。ブラック・マーシュから好きな土地を選んでください。帝都にとって無用な土地であればですが」 「悪くない条件ですが」間をおいて、ヴィヴェックは言った。「即答はできかねますな。シロディールが奪ったぶんだけ補償してくれるなど、これまでになかったことですから。数日の猶予をいただけますか?」 「では、一週間後に会いましょう」王子はそう言って微笑んだ。「それまでにそちらが攻撃をしかけてくることがなければ、秩序は保たれるでしょう」 ヴィヴェックは王子の私室をあとにした。アルマレクシアの読みの正しさを感じながら。戦争は終結した。ジュイレック王子は立派な皇帝になるだろう。 時は南中の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
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センチネルに落ちる夜 ボアリ 著 センチネルの名もなき酒場で音楽は演奏されず、用心深い小声の会話、女給仕人の柔らかい足音、常連が注意しながら酒をすすり瓶の口にあたる舌、何も見ていない目、実に音は少ない。もし誰か1人でもこれ程無関心でいなかったら、上質な黒いビロードのケープをまとった若い女性、レッドガードの存在に驚いたであろう。闇に紛れ、看板もないような質素な地下室では、彼女は間違いなく場違いであった。 「あなたがジョミック?」 がっちりとした、年齢よりも老けた中年の男が声の主を見上げた。彼は頷き、自分の飲み物に戻った。若い女性は彼の横に座った。 「私はハバラ」と彼女は言い、小さなゴールドが入った袋を取り出して、彼のマグの横に置いた。 「そうかい」ジョミックはうなり声を出し、彼女の目を見た。「誰に死んで欲しいんだい?」 振り向きはしなかったが、ただ単に聞いた。「ここで話しても安全なの?」 「ここじゃみんな自分の心配以外しちゃいねえよ。あんたが胴鎧を脱いでテーブルの上で胸出して踊ったって、誰も唾すら吐かねえ」男は笑い、「で、誰に死んで欲しいんだい?」 「実は、誰も」と、ハバラは言った。「本当は、ある人間にしばらく消えて欲しいんだけど…… 危害は加えたくないの。だから専門家が必要なの。あなたは非常に評判がいいわ」 「あんた、誰と話したんだよ」ジョミックは退屈そうに聞き、飲み物に戻った。 「友達の友達の友達の友達」 「その友達のうちの誰かは、まったくオレのことを分かっちゃいねえ」と、男はぼやいた。「おれはもう、それはやらないんだ」 ハバラは急いでゴールドの袋をもう1つ、そしてさらにもう1つ取り出して、男の肘の横に置いた。彼は一瞬彼女を見てから、金を取り出して数え始めた。数えながら男は聞いた。「誰に消えて欲しいんだい?」 「ちょっと待って」ハバラは微笑み、首を振っている。「詳しく話す前に、あなたが専門家で、その人をあまり痛めつけず、慎重に処理してくれる裏づけが欲しいの」 「慎重に?」男は数えるのをやめた。「それじゃあ、昔やった仕事の話をしてやるよ。あれは確か── 信じられねえ、もう20年以上も前か、しかも関わった人間で生きてるのは俺しかいねえ。これはベトニーの戦い以前の話だ。あの戦を覚えているか?」 「私はまだ赤ん坊だったわ」 「だろうな」ジョミックは笑みを浮かべた。「王者ロートンにはグレクリスっていう兄がいたのはみんな知ってる。確か死んじまったんだよな? それで、姉のアウブキじゃダガーフォールの王者と結婚しちまった。でもな、ロートンにゃ本当は本当は兄が2人いたんだ」 「本当に?」ハバラの目が好奇心で輝いた。 「嘘じゃねえ」彼は含み笑いをもらした。「なよなよした弱そうなヤツで、名前はアーサゴー、長男さ。なんにせよ、この王子が玉座の後継者だったんだが、親はそれをあんまり喜んでなくてな。でも、それから女王は健康そうな王子をあと2人ひねり出したんだ。そこで、長男が地底王に連れ去られたように見せかけるために、俺と一味が雇われたわけさ」 「知らなかったわ!」若い女はささやいた。 「当たり前だろ、それが狙いだ」ジョミックは首を振った。「慎重さだ、あんたが言ったようにな。少年を袋に入れて、遺跡の奥深くに閉じ込めた、それで終わりさ。なんの騒ぎもねえ。必要なのは2、3人、袋、それと棍棒だけだ」 「それよ、私が興味あるのは」と、ハバラは言った。「私の…… 消えて欲しい友達も弱いわ。その王子のように。棍棒は何のため?」 「道具さ。最近の連中は楽に使えるものを好むから、昔のほうがよかったものでも、大抵の道具は最近見なくなっちまったぜ。説明してやるよ。平均的なヤツの体には、71ヶ所の痛点がある。敏感だったりするエルフとカジートはそれぞれ、さらに3ヶ所と4ヶ所多い。アルゴニアンとスロードは大体同じくらいで52ヶ所と67ヶ所」 ジョミックは短く太い彼の指を使って、それぞれの部位をハバラの体に指し示した。「額に6ヶ所、眉に2ヶ所、鼻に2ヶ所、喉に7ヶ所、胸に10ヶ所、腰に9ヶ所、各腕に3ヶ所ずつ、股間に12ヶ所、利き足に4ヶ所、もう一方に5ヶ所」 「それで63ヶ所よ」とハバラが答えた。 「違うだろう!」と、ジョミックは怒鳴った。 「いいえ、合ってるわ」計算能力が疑問視されていることに腹を立て、彼女は叫び返した。「6と2と2と7と10と9と片腕3と、もう一方の3と12と4と5で、63でしょう」 「どこか抜かしたんだろう」ジョミックは肩をすくめた。「重要なのは、杖や棍棒の腕を磨くには、この痛点を知り尽くさなきゃならないってことだ。上手くやれば軽く叩くだけで殺せるし、逆にあざも残さずに失神させられる」 「とても面白いわ」ハバラは微笑んだ。「それで、発覚しなかったの?」 「どうやってばれるのさ? ガキの両親、王者と女王はもう死んじまってるし。他の子たちは、彼らの兄は地底王に連れ去られたと信じこんでるし。みんなそう思ってるぜ。それに、俺の仲間はみんな死んじまったしな」 「自然死?」 「自然なことなんて、この湾じゃ絶対おきねえことぐらい分かってるだろ。1人はセレヌーに吸い込まれた。もう1人は女王と王子グレクリスの命を奪った同じ疫病にやられた。別の仲間は泥棒に撲殺されたぜ。生きたけりゃ俺みたいに、目立たず隠れてるこった」ジョミックはゴールドを数え終えた。「相当こいつに消えて欲しいんだな。誰だい?」 「見てもらったほうがいいわ」ハバラは言い、立ち上がった。振り返らずに彼女は名もなき酒場を後にした。 ジョミックはビールを飲み干し外に出た。夜は涼しく、イリアック湾の水面から気ままな風が押し寄せ、木々の葉を舞い上がらせていた。酒場の横の路地からハバラが歩み出て、彼に向かって手招きをした。ジョミックが彼女に近づくと、風が彼女のケープを吹き上げ、センチネルの紋章が入った鎧をあらわにした。 太った男は逃走しようと後ずさりしたが、彼女は早かった。ぼんやりする中、彼は自分が路面を背にし、彼女の膝が喉をしっかりと押さえつけていることに気付いた。 「玉座を得て以来、長い年月をかけてあなたと仲間たちを探してきたわ、ジョミック。あなたを探しあてた時の具体的な指示はなかったけれど、あなたが良いことを教えてくれたわ」 ハバラはベルトから、小さく頑丈な棍棒を取り外した。 酒場からよろけながら出てきた酔っ払いが、路地の暗闇から泣くようなうめき声とともに、柔らかなささやき声を聞いた。「今度はしっかりと数えましょうね。いち、に、さん、し、ご、ろく、なな……」 小説・物語 茶3
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ケメル・ゼーの廃墟 ロナルド・ノードセン 著 帝都協会で浴びた拍手喝采がまだ耳に残っているうちから、私はもうモロウウィンドへ戻る決心をしていた。帝都での贅沢な暮らしが名残惜しくないと言ったら嘘になるが、ラレド・マカイから持ち帰った驚きなど、モロウウィンドにあるドワーフの遺跡の上っ面をなぞっただけのものでしかない。あそこにはまだ目を見張るような宝が埋もれていて、掘り起こされるのを待っているのだ。出発しないわけにはいかなかった。それに、哀れなバナーマンの示唆に富む前例もあった。二十年前、ブラック・マーシュで一度きりの発掘を行い、今になってもそのおこぼれで食いつないでいるような男になるつもりなどない。私はそう誓ったのだ。 女王の手紙を持っていたので、今回ばかりは帝都政府も全面的に協力してくれそうだった。もう、迷信深い地元民に襲われる心配もない。が、いったい次はどこを探せばいいのだろう? ケメル・ゼーの廃墟は妥当な選択だった。ラレド・マカイのように廃墟にたどりつくまでが苦しいということもない。“崖の街”としても知られるケメル・ゼーはヴァーデンフェル断層の本土側にあって、断崖絶壁の海岸線のたもとに広がっている。ヴァーデンフェルの東海岸からなら海路で訪れるのが一般的だが、近くの村から陸をとっても、余計な苦労を背負い込むことなくたどりつける。 探検チームがセイダ・ニーンに集結すると、こうした文明の遅れた土地での作業につきものの面倒をうんざりするほど抱えたまま、私たちは廃墟にほど近いマログの村へと出発した。発掘の作業員はその村で雇えばいいだろう。私の通訳を担当するツエン・パナイはダークエルフらしからぬ陽気な男で、地元の軍司令官から推薦されてセイダ・ニーンで雇ったのだった。パナイいわく、ケメル・ゼーを熟知しているマログの村人たちは、祖先の代からあの廃墟を荒らしているらしい。ついでだが、テン・ペニー(その場でつけた彼のあだ名で、本人も気に入っていた)は雇っても後悔させない男で、モロウウィンドの原野への似たような探検を考えている同僚がいたら、ためらうことなく彼を推薦しようと思う。 マログ村で最初の困難にぶつかった。控えめで気品のある村の長は快く協力してくれそうだったが、村の僧侶(この地で信仰されている、モロウウィンドの王宮に住んでいるという法廷なる存在を崇拝するくだらない宗教の代表者)が廃墟の発掘に対して激しく抗議してきたのだ。この僧侶は、この発掘が“宗教的禁忌”にあたると訴えかけることで村人を懐柔しにかかったが、私が女王の手紙を彼の鼻先で振ってみせ、セイダ・ニーンに詰めている軍司令官の友人のことを口に出すと、たちまち静かになった。この猿芝居が、村人が画策した賃上げ交渉の基本戦術であることは疑いようがない。とにもかくにも、僧侶は何やらつぶやきながら歩き去った。外国からやってきた魔性のリーダーに呪いをかけているのだろう。ほどなくして、なんとしても作業員の職につきたいという顔をした村人が列を成した。 契約条件や支給品などの委細を煮つめるのは助手に任せておいて、私とアルム師は廃墟まで馬を駆った。陸路から廃墟へ向かうには、断崖の壁面に沿って上からうねうねと伸びている小道を通らなければならず、一歩間違えば、眼下のいかつい岩場で渦巻いている海へと転がり落ちていくことになる。街への入口はもともと北東にあったに違いない。はるか昔、赤き山の噴火によってこの度肝を抜かれる火口が生まれたときに、それは海面下に沈んでしまっていたのだが。足場のぐらつく小道を首尾よく突破すると、大部屋のような場所へやってきた。片側は吹き抜けになっていて大空が広がり、もう片側は闇の中へ消えていた。歩を進めていくと、鉄くずの山をブーツで踏みつけた。古代遺跡で見かける陶片のように、ドワーフの廃墟ではお馴染みのものだ。略奪者たちはきっとこの場所で、遺跡の奥から見つけてきたドワーフ製の機械から金になる外殻だけをはぎ取り、無駄な部品を置き去りにしたのだろう。そのほうが、機械を分解しないまま崖のてっぺんまで運ぶよりはずっと楽だろう。何人もの戦士が知らず知らずのうちにドワーフ製の機械の一部を背負いながらタムリエルを歩きまわっている姿が浮かんできて、私はほくそ笑んだ。もちろん、それがたいていの“ドワーフの鎧”の正体、つまり、古代の機械人間の強化外骨格にすぎないのだ。完全な姿の機械であったら、どのくらいの値がつくのだろうと思い、ふと我に返った。大広間の床を埋めつくす鉄くずの量から判断するに、この廃墟がドワーフ製の機械装置の宝庫であることは確実だろう、いや、確実だったろう。何世紀もかけて、略奪者はここを荒らしまくってきた。外殻だけでも、鎧として売れば、まとまった金になるのだ。たいていのドワーフの鎧は雑多な部品の寄せ集めのため、かさばって扱いにくいというのが通説だ。が、完全な一体の機械から作られる鎧一式なら、金に換えられる以上の価値があるだろう。すべての部品が滑らかに重なり合い、そのいかつさがほとんど気にならなくなるのだから。もちろん、どんなに価値があろうとも、見つけた鎧を壊すつもりなど毛頭ない。科学的研究のために協会に持ち帰るつもりだった。今度の講義で鎧をお披露目したときの同僚たちの驚嘆ぶりを思い描いて、私はまた微笑んだ。 私は足元の鉄くずの山から、捨てられた歯車を拾った。まだ新品のように輝いていた。ドワーフ製の合金は時が経っても腐食しない。目の前に横たわる空洞の迷宮にはいったいどんな秘密が眠ったままになっているのだろうか。略奪者の企みを寄せつけないまま、気の遠くなるような時間を経て再び光のもとにさらされ、輝く時を待っている。私のことを待っている。私が見つけるためだけにとどまっている。急き立てるようにアルム師を手で呼んでから、私は暗がりに歩を進めた。 アルム師、テン・ペニー、そして私は数日間かけて廃墟を探検した。助手が崖のてっぺんに野営地を設営し、村から物質や装備品を運んできてくれた。私は実りの多そうな場所が見つかればいつでも発掘に取りかかるつもりでいた。廃墟内の前人未到の場所へと続く、略奪者の触れていない封鎖された通路や廊下が見つかれば。 そういった場所はすでにふたつほど見つけていたが、すぐに、何本かの曲がりくねった通路が封鎖地点を迂回して背後にある部屋へと通じていることがわかった。こうした外縁地域にも略奪者の手は伸びており、何世紀にもわたる発掘でほとんど秘宝は奪われていたものの、目に映るものすべてに考古学者の興味はそそられた。はるか昔の地殻変動で蝶番がふっ飛んでしまった巨大な青銅の扉の背後に、壮麗な彫刻が壁に施された大部屋を発見した。疲れ果てていたテン・ペニーでさえも目を見張っていた。彼はモロウウィンドのドワーフの廃墟なら完全踏破したと豪語していたのだが。壁の彫刻はなんらかの古代の儀式を描いたものらしかった。古典的なあごひげを生やしたドワーフの長老が長い列を成して横の壁を行進していた。どのドワーフも、正面の壁に彫刻された巨大な神らしきシルエットにお辞儀をしているように見えた。そのシルエットは山の火口から一歩踏み出し、煙か水蒸気の雲に飛び込もうとしていた。アルム師の話では、これまでにドワーフの宗教儀式が描かれたことはなく、とても刺激的な発見だと述べた。私は作業班に命じて、彫刻された石版を壁からはぎ取らせようとしたが、表面を傷つけることさえできなかった。詳しく調べてみると、この大部屋は手触りも見た目も石に模した金属性物質で表面加工されているため、手持ちのツールではまったく歯が立たなかったのだ。アルム師の魔法で壁を爆破してもらおうかと考えたが、彫刻そのものを破壊してしまうリスクを負うことはできず、諦めた。これらの彫刻を帝都に持ち帰りたいのはやまやまだったが、石ずりをとるだけで我慢した。協会の同僚が興味を示せば、石版を安全に取り外せるだけの知識が備わった、名人級の錬金術師のような専門家を紹介してもらえるだろう。 私は変わった部屋をもう一つ、蛇行する長い階段のてっぺんに見つけた。天井から落っこちた瓦礫をかき分けてなんとか進んだ。階段を上がりきると丸天井の部屋になっていて、大がかりな壊れた装置が中央に据えてあった。丸天井の表面のところどころに星座が描かれているのが今もまだ見てとれた。この部屋は天文台のようなもので、中央の装置はドワーフ式天体望遠鏡の残骸だろうということで、アルム師と私の意見は一致した。装置を取り外して狭い階段で運び下ろすには、完全に分解する必要があった。(だからこそこの装置は略奪者の目に留まらずに済んだのだろう)ため、ひとまずは持ち帰るのを諦めることにした。が、この天文台の存在が、この部屋がかつて地上に出ていたことを示唆していた。構造を細かく調べてみると、この部屋は堀り穿たれたわけではなく、実際の建物であることがわかった。もう一つの出口は完全に塞がれていた。崖のてっぺんから最初の部屋まで、さらにこの天文台までの深さを慎重に測定してみたところ、私たちは現在の地表から250フィート以上も地下にいることがわかった。もはや忘れられているが、赤き山の噴火はそこまで凄まじいものであったのだ。 この発見によって、私たちの意識はさらなる地下へと向けられた。古代の地表のおおよその位置がわかった今、それよりも上にあるふさがれた通路は無視してもよくなった。私の興味をとらえたのは、模様の彫られた円柱が両端に並んだ幅広の通路だった。はなはだしい落石のせいで行き止まりになっていたが、略奪者の掘ったトンネルが瓦礫の山の途中まで続いていた。発掘チームとアルム師の魔法が揃えば、先駆者が諦めた地点から作業を引き継ぐことができそうだった。ダークエルフのチームを呼んで通路を片づけさせ、ようやくケメル・ゼーの本格的な発掘にとりかかれる。私は安堵した。じきにこのブーツで、世界が始まってから一度も踏みつけられたことのない埃を巻き上げることになるのだろう。 こうした期待感に興奮しすぎたのか、私は採掘人をいささか追い立てすぎてしまったようだ。テン・ペニーの報告によると、彼らは労働時間の長さに文句をつけはじめ、こんな仕事はやってられないと口にする者までいるらしい。ダークエルフに気合を入れ直させるには鞭で脅すのが一番だというこを経験上学んでいたので、私は彼らのリーダーを鞭打って、通路が確保されるまで残りの採掘人たちを働かせた。セイダ・ニーンから数名の帝都兵を同道させたのは正解だった。採掘人たちは最初こそ渋い顔をしていたが、トンネルが貫通したさいには一日分のボーナスを与えると約束すると、意気揚々と作業に取りかかった。文明生活に慣れてしまっている読者には野蛮なやり方に聞こえるかもしれないが、こういう人種を作業に従事させるにはこうするより他はないのだ。 落石の規模は思ったよりもひどかった。結局、通路を確保するまでにほぼ二週間を要した。採掘人のつるはしが最後の穴を開けて反対側の空洞へと抜けたときには、私も彼らに混じって大喜びし、終わりよければすべてよしという意味で地元の酒をまわし飲みした(ひどい味だったが)。採掘人が向こうの部屋に進めるよう穴を広げるのを見ながら、私ははやる気持ちを抑えられなかった。この通路は古代都市の新たな階層へ続いていて、そこには消息を絶ったドワーフの残した秘法が埋まっているのだろうか。それともただの袋小路で、どこにも続いていない横道にすぎないのだろうか。私は興奮に打ち震えながら穴をくぐり抜け、その先の暗闇でしばらくしゃがんでいた、足元で砂利が擦れる音がして、あたりに鳴り響いた。大きな部屋にいるらしかった。それもかなり大きな部屋だ。私はゆっくりと立ち上がり、ランタンの覆いを取り払った。灯りが部屋を満たし、呆気に取られながら部屋を見渡した。それは想像を遥かに超える驚愕すべき光景だった。 ランタンの漏らす光が落石地点の向こうの部屋を満たしていき、私はまたもや驚きの眼差しをぐるりと投げかけた。ドワーフ製の合金の放つほのかな輝きで満ちていた。古代都市の未知の領域に足を踏み入れたのだ! 興奮のあまり心臓が早鐘を打っていた。私はあたりを見渡した。部屋はあきれるほど巨大で、天井はランタンの光が届かない闇まで突き抜けていた。部屋の奥は暗くてよく見えないが、思わせぶりな光のまたたきが、まだ見ぬ宝物の存在をほのめかしていた。両側の壁に沿って機械人間が立ち並んでいて、荒らされた様子はなかったが、奇妙な点がひとつだけあった。儀式的な意味でもあるように、その頭部が取り外されて足元に置かれていたのだ。考えられることはただひとつ。私は偉大なドワーフの貴族の墓を発見したのだ。ひょっとすると、ドワーフの王のだ! この種の墓所は何度か発見されていて、もっとも有名なのはランサム率いるハンマーフェルの発掘で出土したものだろう。が、完ぺきな状態の墓は未発見だった。そう、今までは。 が、これが本当に王族の墓所だとしたら、その主はどこにいるのだろう? 私はそろそろと前進した。時代を超えてそうしてきたように、頭のない人形の列が静かに立ちすくんでいる。取り外された頭部の瞳で見つめられているような気になった。ドワーフの呪いに関する突拍子もない話ならさんざん聞かされていたが、私はそのたびに迷信だと笑い飛ばしていた。が、今こうして、この都市を作った謎の建築家が吸ったのと同じく空気を吸っていると、そして彼らに災いをもたらした天変地異が起きてからひっそりと眠りつづけていた都市に立っていると、恐怖心がわいてきた。何らかの力が漂っている。私の存在に立腹している邪悪な力が。私はしばらく立ち止まって耳をすませた。ひっそりと静まり返っていた。 いや…… かすれるような音が聞こえてきた。呼吸するように一定の間隔で。私はパニックに襲われそうになるのを懸命にこらえた。武器もない。塞がれた通路の向こうを探検したいと気が急くあまり、危険が待っているなどはつゆほども思わなかった。脂汗をたらしながら、気配を感じようと暗がりに視線を這わせた。部屋は暖かい。ふと気づいた。これまでのどの部屋よりもかなり暖かく感じる。興奮が舞い戻ってきた。いまだに機能している蒸気パイプ網につながっている区画を見つけたのだろうか? 廃墟のいたるところで見かけた配管が壁沿いに走っていた。私は配管に近づいて触れてみた。ほとんどさわれないほど熱かった。古代の配管のあちこちが腐食して、か細い蒸気が噴き出しているのがわかった。私が聞いた音はこれだったのだ。みずからの早計さを笑った。 さて、私はさっそうと奥まで進んだ。ついさっきまでは気圧されそうな迫力があった機械戦士たちに笑顔で敬礼をしながら。光が数世紀ぶんの闇を追い払っていき、台座にそびえるドワーフ王の巨大な彫像が露わになっていくにつれて、私は勝利の笑みを浮かべた。ドワーフ王はその鉄の手に錫杖をにぎっていた。これまでの苦労が報われたぞ! 私は台座をゆっくりとひと回りし、古代ドワーフの職人芸にため息をもらした。黄金の王は高さが20フィートほどで、ドーム型のクーポラの下に立っていた。先端が反り返った長いあごひげを威厳たっぷりにたくわえていた。ぎらつく鉄の視線にずっと追われているような気がしたが、私の迷信深さはもう消えていた。私は慈しむように古代ドワーフ王を眺めた。わが王、既にそんなふうに思いはじめていた。台座に乗っかって彫刻された鎧を間近で観察しようとした。と、彫像の眼が開き、篭手をつけた拳を振りあげて殴りかかってきた! 黄金の腕が振り下ろされ、私は身を翻してかわした。直前まで立っていた場所から火花が飛び散った。蒸気を吹き、歯車をきしませながら、彫像はぎこちない動きでクーポラの天蓋から歩み出ると、ものすごい勢いで私のほうへ迫ってきた。慌てて後ずさりをする私の姿をその眼が迫っていた。またもや拳が振り下ろされると、私は円柱の陰にさっと隠れた。うろたえるあまりランタンを落としてしまい、光の池から闇の中へとすべり込んだ。あわよくば、顔のない像の間をすり抜けて安全な通路まで逃げられるようにと。怪物はどこにいったんだ? 20フィートもある黄金の彫像を見失うなんてありえないと思うだろうが、王の姿はどこにもなかった。弱々しいランタンの火がわずかに部屋を照らしていた。暗がりのどこに王がいてもおかしくなかった。私は這うように進んだ。何の前触れもなく、目の前に並んだつやのないドワーフ戦士が飛び上がるや、怪物のような守護神が目の前にそびえ立っていた。逃げ道をふさがれた! 執念深い機械が矢継ぎ早にパンチを繰り出しながら追ってきて、私は後方へかわしながら逃げた。やがて、部屋の片隅に追いつめられた。逃げ場所も絶たれてしまった。壁を背にして立っていた。私は敵をにらみつけて覚悟を決めた。巨大な腕から最後の一撃が振り下ろされた。 そのとき、広間に閃光が殺到してきた。紫のエネルギー弾がドワーフの怪物の鋼鉄の殻を引き裂いた。怪物の動きが止まった。新たな敵の姿を認めようとして半分振り向いたところだった。アルム師が駆けつけてくれた! 私が歓喜の声をあげかけた時、巨像がこちらへ振り向いた。アルム師の放った稲妻の魔法にもびくともせず、最初の侵入者を叩きつぶそうと決心していた。私は叫んだ。「蒸気だ、蒸気を使え!」巨像は拳を振り上げて私を地面にめり込ませようとした。しゅっという音とともに冷気が吹き抜け、私は顔を上げた。怪物が氷の殻に覆われていた。今まさに私に仕留めようとする姿で。アルム師はわかってくれたのだ。私はほっとして壁にもたれた。 氷がひび割れた。巨大な黄金の王が目前にそびえていた。氷の殻がはがれ落ちると、勝ち誇ったような顔で私のほうを向いた。このドワーフの怪物を止める手立てはないのだろうか? と、彫像の眼から光が消え、腕をだらりと下げた。氷の魔法が奏功し、蒸気機関が冷やされたのだ。 アルム師と採掘人がやってきて私を取り囲み、奇跡の生還を祝福した。私はぼんやりとしていた。帝都に帰還したらどうなるだろうか。きっと最大級の賛辞を浴びることだろう。越えることのできない発見をしてしまったのだ。次の道を模索する時なのかもしれない。伝説の“アルゴニアの瞳”を探し当てたら…… またもや大騒ぎになるぞ! 私はほくそ笑んだ。この瞬間の栄光を満喫しながらも、次の冒険に思いを馳せていた。 白1 随筆・ルポルタージュ
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シェオゴラスの祝福 我らがシェオゴラス閣下がなければ、すべての考えは端的で、すべての感情は面白くないものになるだろう。 祝福されしはマッドマン、秘密の知識の鍵を持っているから。 祝福されしは恐るる者、いつも傷つけられることを警戒している。 祝福されしは悩める者、行く末がはっきりしているから。 祝福されしは中毒者、決して引くことのない渇きを癒してくれる。 祝福されしは殺人犯、奇怪な中に美しさを見つけたから。 祝福されしは火を愛す者、その心は常に暖かいから。 祝福されしは芸術家、その手の中で不可能なことが現実となるから。 祝福されしは音楽家、その耳の中で魂の音楽が聞こえるから。 祝福されしは眠らない者、眠れぬ夢を見ているから。 祝福されしは執着する者、我々の敵に常に用心している。 祝福されしは洞察できる者、その目は未来を見ているから。 祝福されしは痛みを愛す者、苦しみの中で強くなるから。 祝福されしはマッドゴッド、我々が愚かであればだまし、間違っていれば懲らしめ、不注意であれば苦しめ、だが欠点があっても我々を愛してくれる。 SI デイドラの神像関連 神話・宗教 緑1
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生きている森 ナールは他に類を見ない森の生物だ。ニュー・シェオスの壁から離れたところでは、「歩く木」と呼ばれている。ナールは、元素の力と親和性を持つことで知られている。炎、氷、電撃といった元素の力に襲われると、ナールはそのエネルギーを利用してより強く、大きくなるのだ。幸いなことに、その効果が続くのは短い間だけである。 ナールが不用心な魔術師を混乱させ、当惑させるのは、シェオゴラスの意志によるものである。この時、ナールは自分が襲われた元素に対する抵抗を増すが、他の二つに対しては弱くなってしまう。狡猾な魔術師はこのことをうまく利用するため、素早く元素呪文を切り替えようとする。未熟な魔導師が同じ呪文を何度も使ったりすれば、苦しむことになるだろう。 近年、ナールから抽出した琥珀の樹液を使って丈夫な鎧や武器を作ることができる鍛冶屋がいるという噂が流れている。今のところ、この噂の裏付けは取れていない。 ナールについては、分かっていることより分からないことのほうが多い。ナールの性別はまだ誰も解き明かしていないし、そもそも性別があるかどうかも分かっていない。若いあるいは幼いナールの姿が確認されたことはない。ある研究者は、雷に打たれた木からナールが成体の形で生まれるのではないかという考えを述べている。この馬鹿げた見解の裏付けは取れていない。 同様に、彼らの食餌や社会的習性についても何も分かっていない。おそらく、木と同じように、日光や土から直接栄養を取っているものと思われる。ナール同士を含めて、彼らの交信が報告されたことは一度もない。とはいえ、バリウォグやエリトラといった他の森林生物との間に、停戦協定のような物が確かにあるように思われる。 SI 生物学 白1